
旅館の朝食
仮免試験の当日の朝。いつもより1時間早い6時に起きて、問題文の復習をし、食事をとってから散歩に出かけた。
緊張を和らげるために、イヤホンから流れるglobeを鼻歌で歌いながら歩く。
そうして少しでも心を落ち着かせ、スクールバスに揺られて教習所へ向かった。
今日、技能検定を受けるのは全員で3人。
私以外は、同じ合宿生仲間の20代前後の男の子たちだ。
まず教官から、コースやルールが書かれた紙を配られて説明を受け、動画で試験内容の確認をする。
その後は外に出て、同じAT車の免許を取る男の子と一緒に後部座席に乗り、教官の運転でコースを1周して最終確認を行った。
そしていよいよ本番。
なんと、私が一番手で運転席に座ることに。
慣らしのためにコースを1周したあと、すぐに試験が始まった。サクサク進みすぎて心の準備が追いつかない。
それでも、コースを曲がるときの合図を出し忘れることもなく、運転は順調だった。
心配だった右折のあと、逆走せずに左側車線に入るのも大丈夫。さらに、大難関だったクランクが、これまでで一番きれいに決まった。
よし、そこから右折……と思った、その瞬間だった。
「ブレーキ踏んで!」
教官の声が響く。
私「????(間違いに気づいて)!!!!!!!!」
間違えて、逆走車線に入ってしまっていたのだ。ばかあああああああああああ。
試験官「君は、やってはいけないことをしたね。さあ、車から降りて助手席に移動して」
はい、試験終了。
教官の運転で発着地に戻り、不合格の理由を説明された。
一発合格するなんて思っていなかったけれど、実際に不合格を突きつけられると精神的ダメージが大きすぎる。
泣きそうになるのを、ぐっとこらえた。
次の番の男の子と運転席を交代し、彼の試験が始まる。
後部座席で見る彼の運転は、自分の技術がいかに糞かを思い知らされるほど上手かった。スピードにメリハリがあり、実にスムーズ。
S字で1回脱輪はしたものの、「絶対に大丈夫だろう」と思わせる安定感があった。
同じくらいの時間しか走っていないのに、この差は何だろう。
圧倒的な技術の差を見せつけられ、 「はぁーーー、そりゃ私が落ちるわけだわ……明日も受かる気がしない……」と、ため息しか出なかった。
ポカンと、明日の再・修了検定まで24時間もの暇な時間ができてしまった。

教習所で頂いた弁当
学校から出されたお弁当を食べたけれど、ショックのせいか全然美味しくない。
補習までの時間、気分を変えるために音楽を聴きながら田んぼ道を歩いた。
中島みゆきの「ファイト!」を聴きながら一緒に熱唱していたら、堪えていた大きな涙がボロボロと溢れてきた。
私 本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
私 驚いてしまって 助けもせず叫びもしなかった
ただ恐くて逃げました 私の敵は 私です
ファイト! 闘う君の唄を
闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中を
ふるえながらのぼってゆけ
運転しているときの敵は、いつだって自分だ。
負けるな、負けるな。若い子におばちゃん負けるな!
その後の1時間の補習。
気持ちを切り替えたつもりだったが、やっぱり運転に集中できず、合図の出し忘れを多発してボロボロだった。
宿まで車で送ってもらったあとも、中島みゆきの曲を熱唱しながら散歩に出た。
車がビュンビュン走る山道を、音痴が大熱唱しながら歩く。
いいさいいさ、誰も聞いちゃいない。
気持ちが晴れるまで歌えばいいさ。

夜通るときホラーなトンネル
途中で寄ったお土産物屋で、同じ宿の人とバッタリ再会したときには、思わず笑ってしまった。
「あ、まだ私、笑えるな。だから大丈夫だ」と思った。

山奥にある旅館は雪が積もり始めた
免許合宿は決して楽しくはない。
だけど、教習所の先生や生徒、旅館のスタッフなど、周りの優しい人に恵まれていることに心から感謝しかない。
運転技術がさんざんな上に、人間関係までキツかったら、本当に心が折れていただろう。
明日こそ、絶対に受かってやる。

旅館の夕食
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